メタモルフォーゼ

(2010年〜)

物心ついた時から私は、男女の性別が倒錯したり、曖昧なものに強い興味を抱いていた。その原因と言えるべきものは、父の所蔵していたダイアン・アーバスの写真集である。そこには、半分は男性で半分は女性の格好をした人物や、もはや性別が不明の人々、アウトサイダーの人々、それらが正常か異常かという判断がつく年齢に満たなかった私は、世の中にはこんな人間がいるのかとただただ興味深く写真集を見ていた。

その頃私は、自分は少年であると強く信じていた。中学に上がる頃まで、ショートカットに半ズボンといった少年の出で立ちであった。しかし、私は中学の2つ上の美しい先輩に一目惚れをし、その人に好かれたい、可愛いと言われたいという心が芽生え、それから髪を伸ばし、当時はロリータファッションが流行り始めた頃だったので、沢山のレースで飾られたワンピースを着るようになったりした。その時から私の変装は始まった。少年の心を持った私は女装を始めたのであった。私は、自分が女性の肉体を持っている事に違和感を感じている。まるで、自分のものでないような、ただの表層でしかないような感覚がある。髪をセットして、メイクをして、可愛い洋服を着るには都合のいい体である、と思い今も暮らしているけども、少年の自分が可愛い服を着ている事に意義があるのである。

大学生の時、一冊の本と衝撃的な出会いをした。写真家、べッティーナ・ランスの「モダンラヴァース」という写真集である。そこには、顔は完全に少年のようなのに、豊満な女性の肉体を持った少女や、17歳のまるで女装させられた少年のようなケイト・モスのポートレイトなど、見れば見るほど頭が混乱して麻痺を起こしていくような被写体たちが写っていた。彼等こそ、私の会いたかった人々である。と強く確信した。ダイアン・アーバスの写真集の人々を見ていた時の気分にも似ていた。言葉では表せない混沌とした感情が湧き上がってきた。私にとって彼等はまるで、宇宙人のような、天使のような、または妖精のような魅力を持っている。それは星屑のようにキラキラとして私の目に映った。

そして、私は自分の周りにいる、キラキラした友達たちを撮影する事を始めた。ある子は、長い髪の毛に薄化粧の映える少年であったり、お人形になりたいと本気で思っている少女であったりした。彼等の地球の重力に逆らっているような魅力を、昔憧れていた少女漫画家のスタイル、輝きを表現するホワイト、色とりどりのカラーインクで描かれたような写真を作り出したい。

そのような気持ちから生まれたのがこの初期から続くシリーズである。

須藤絢乃


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