北山善夫展『事件』

会期|2019年5月18日(土) – 6月16日(日)*6月23日(日)まで会期延長
会場|MEM map
営業時間|12:00-20:00
定休日|月曜日 [祝日または祝日の振替休日は開廊し、翌日休廊]
電話|03-6459-3205

オープニングレセプション
日時|2019年5月18日(土) 18:00〜
会場|MEM

北山善夫は80年代より和紙にインクで描く大きいスケールの絵画に取り組んでいます。それらは、あらかじめ 制作した人型の粘土の彫刻を平面に写し取った「偶像図」と、独自の世界観を表す「宇宙図」という2つのシリー ズに分けられます。これらはそれぞれ絵画における図と地の問題に取り組んだものでした。本展は北山の2014年以来の個展になり、両シリーズの新作を展示いたします。特に2006年から取り組み十年以上かけて完成した約5mの幅を持つ宇宙図『事件』を初めて公開します。近年の「宇宙図」は無数に描かれた丸の集積が画面全体を覆う作品に変化していきました。原子や分子が集まりこの宇宙を作っているように、極小の丸の集合が波のようにうねりながら生命に満ちたひとつの世界をつくりあげています。北山はこれらを従来の意味での抽象画ではなく、量子力学的な視点から宇宙を描いた具象画だと言っています。


展示作品について
《事件》(2006-2017年)
私が存在しているこの地球はビックバーンから始まったと言われている。そしてビックバーンは真空のゆらぎの中から始まったとされている。又、この始まってしまったこの宇宙は、原子や分子や素粒子で出来ている。粒は円(マル)である。円は内と外を表すもっとも基礎的な形体と言える。その最小の円の連続を水平に連続してペンで描くことによって安定した横軸の絵画が生まれる。生きている人間である私が一つずつの円を描く事は、時間の矢のようにあともどりは出来ない。今の連続が描かれ、一刻一刻の私の生の二度と同じでない時が表現される。ペンのインクの注出の具合も筆圧で一定ではない。つまり同じ円は一つとして無いのである。円の連続を描く事は作者としては機械のように直径1mmぐらいの円を、ペンで描ける可能な最小の円で、機械でない生体の私の身体は猛烈に過酷で退屈な作業である。その過酷で退屈な作業は宇宙が始まるビックバーンの真空のゆらぎを私自からが体験しなぞろうという企みから考えだされたものである。
完成された作品は厖大な時が描かれた。円の連続であるが、画面全体に同じような形の円は、原子や素粒子のように、空間を埋め、時間も埋め尽くされているが、統一された全体像は一つとして同じ円でないためゆらいでいて厖漠とした世界像が現出する。
この作品は、日本画であり、山水画であり、水墨画であり、量子物理学的絵画で、ミニマル絵画であり、厖大時間風景画である。しかしただの単なる絵と言う事が適切なのかも知れない。
この作品が出来上がった時、具体的に最小限度の一つ一つの円の列の総体はマクロとしての宇宙と、ミクロとしての物理学的宇宙とを作品は獲得した。又、私の宇宙の誕生に立ち会う事ができた。これはもう歴史的な事件だと思うのだが。

《もう始まってしまったここ》(2015-2016年)
《事件》と同じ考え方で描き始めた。毎日、約1mmの円(マル)を左から右へと一列一列描いた。ペンのカートリッジのインクが少なくなってカスレが出て来た。そして、ペンの生理にまかせた。この図はかすれが円の死、空白、不連続や断絶を表現できそうで「事件」とは同じ描き方であるが、かすれによて異なる宇宙図が出現した。《もう始まってしまったここ》とは、私が生まれた時はすでにこの世界は始まっていた、の意味である。
芸術も又、既に始まっていて、途中から参加しなければならなかったの意味もある。

《冬至 (地上からの透視図)》(2018年)
地上から星を見ている視点がもととなっている。見る者と星との関係は、1対1の関係で、光という線で結ばれている。しかし、線は奥行きとして真正面から見ると点でしかない。星はあまりに遠いため、極小の点であるが、現実に存在している。しかしあまりに遠い彼方にあり、その距離は抽象のように非現実的である。

《固唾を吞む》(2018年)
ランダムな粒子を円の構成で爆発し続ける無数の数えきれない太陽や惑星を寄り集め、雲河を形成し、はてしなく膨張し続けてる様を無作為の描写によって完成した。しかし一つ一つの円は意識的に描いた。

《生まれて 生きて 死ぬことを知り得る》(2019年)
図絵画のシリーズの偶像図として画面全体を描くのは4点目である。
図絵画シリーズの始めのシリーズは宇宙図と偶像図は地と図の関係でペアとして分離していて(別々の紙に)表現していた。そのあと、描き進めながら、それぞれ宇宙図と偶像図として独立できるようになった。それ自身で、地と図の問題を解決できるようになったのである。主題として、この偶像図は、人間の歴史を表現している。有史以来から今日まで資料を読み取り、私なりに考えたのである。
私が属する人類の歴史を誕生から死までの事件を油土で人形(ひとがた)を採用し彫塑した。それにライティングをして陰影をペンで克明に描写している。重要なポイントは、リアリティであり、ライブ感である。人が今、正に誕生し生まれ、正に死んでゆく現場を描写する事である。災害、津波、死、大人、子供、男、女、老人、老婆、若者、悪意、善意、愛、慈しみ、妬み、鬼、神、依存、搾取、セックス、暴力、権力者、出産、戦争、極楽、地獄・・・などの事件を並置し図にし、絵画した。