石原友明展『三十四光年』

石原友明展『三十四光年』

会期|2018年7月14日(土) – 8月12日(日)
会場|MEM map
営業時間|12:00-20:00
定休日|月曜日 [祝日または祝日の振替休日は開廊し、翌日休廊]
電話|03-6459-3205

【対談企画】
日時|7月14日(土) 18:00〜
ゲスト|林道郎 (美術史・美術批評)
*参加無料
*対談終了後にオープニングレセプション開催

1959年大阪生まれ。1984年京都市立芸術大学卒業。80年代年代セルフポートレイト写真を紡錘形のカンバスに感光乳剤を塗って焼き付けた作品、革で縫い合わせた巨大な彫刻等、写真、絵画、彫刻を横断しながら美術のメディアの枠組みや、見ることの構造を問い直す作品を制作してきました。同時に石原は従来の意味での全身や顔の自画像を撮影するだけでなく、近年では身体の一部(毛髪、血液等)を素材にした「自画像」を平面、立体作品で制作しています。制作行為は、「ものを身体化すること、身体をイメージ化すること、イメージをもの化すること、を繰り返すひとつのプロセス」であり、「からだ」の有限性を拡張する試みだと石原はいいます。本展では、34年前に撮影したセルフポートレイトをあらためて銀塩プリントで焼いたものを計60点展示いたします。他に自画像を元にしたカンヴァス作品や立体等も展示予定。


「三十四光年。」
ずっと見て見ぬ振りをしていたのだが、春になって長年放置していた古いネガの整理にやっと手をつけ始める。珍しく気が急いているのは、歳のせいばかりではなく、日に日に白黒写真の材料が手に入りにくくなっていることに気づいたからだ。使い慣れた印画紙も今は手に入るものが少なくなって、それもいつまで続くのか心許ない。自室の窓に暗幕を引き不完全な暗室をしつらえて、日が落ちてからのプリント作業である。空調がないので薬品の温度を保てるのはたぶん梅雨までだろう。自写像を「展示」する仕事を始めて間もない頃のフィルムは34年の時間を経ているのだが、意外に保存状態は悪くない。引伸ばし機にセットしてタイマーのスイッチを入れると、まるでタイムスリップである。かつての光がざらざらとした手触りで目の前にたちあがってくる。
「それは=かつて=あった。」そのフィルムと同じ頃にわからないままに読んだ「明るい部屋」の一節。写真とは「存在」が光を通じて転移するものだ、とあらためて実感するのはいつも真っ暗な暗室の中で、である。それはノスタルジーとはまるで違っている。光は「いま、ここ」で起こっている化学変化のなかで物質として現前してくる。それは「かつてのあそこ」が転移して生まれ返す新しい「存在」なのだ。ちょうど遠い恒星から長い年月を経て届く夜空の星のように。あるいはゾンビのように。光はゆっくりと時間をかけて届く。

2018年5月  石原友明